急な転勤で空いてしまう自宅や相続して受け継いだ実家など、持ち家を貸し出して活用したいと考える方も多いでしょう。この記事では「持ち家を貸すにはどうすればよいのか」について、家を貸す流れから賃貸契約の種類、賃貸中の管理方法、賃貸運営の収支、賃貸運営における注意点まで、解説します。
持ち家を賃貸に出す最も大きなメリットは家賃収入が得られることでしょう。固定資産税や修繕費用などに充てることができ、家の維持に必要な費用を家自身に稼いでもらうことができます。一時的でも持ち家を貸し出せば将来、自身や家族が住むことができるとともに、有効な資産活用ができます。
また、入居者がいることで設備の故障や雨漏りなど、家の不具合にすぐに対応できるのもメリットといえます。加えて、人が住むことによって、建物の劣化を抑制できるというメリットもあります。
また、持ち家を賃貸に出すと費用や税金の負担を軽減することができます。家賃収入は不動産所得とされ、所得税・住民税が課されますが、賃貸を行う際にかかった費用を経費として家賃収入から差し引くことができます。さらに、不動産所得が赤字となった場合には給与所得などほかの所得から、赤字額を差し引くことができ、節税が可能です。
持ち家を賃貸に出す際に最も懸念されるデメリットは、入居者によって持ち家が汚されたり、傷ついたりしてしまう可能性があることでしょう。日常生活によって劣化する部分を除き、入居者の故意・過失によるものは、修繕費用を入居者に請求できます。
また、家賃の滞納や無断でのペット飼育などのトラブルも懸念事項のひとつでしょう。入居者のとのトラブルは、入居審査をしっかりと行うことである程度防ぐことができます。また、賃貸管理会社を利用することで、トラブル発生時の対応を任せることができます。
なお、当然ですが賃貸中は持ち家を自由に使うことはできません。物置や一時的な滞在施設として利用することはできなくなります。将来的に利用する予定がある場合には、契約の種類にも気をつけましょう。詳しくは「3. 賃貸における契約の種類」で説明します。
持ち家を貸すには、何からはじめたらよいのかわからない、という方も多いでしょう。はじめに、持ち家を貸すときの流れを解説します。
本業として賃貸運営を行う場合でなければ、賃貸管理会社を利用することが一般的です。持ち家を貸すには、入居者募集から賃貸中の管理、退去時の手続きなどの賃貸管理業務をこなさなければなりませんが、これらのほとんどは賃貸管理会社に任せることができます。
ひとくちに「賃貸管理会社」といっても、会社によって扱っている物件が異なります。転勤時の賃貸で扱われるようなファミリー向けの物件や期間を限定して貸し出す契約方法は、賃貸市場において少数派です。これらに該当する場合は、取り扱い実績のある賃貸管理会社を選びましょう。
多くの賃貸管理会社では、物件の賃料査定を無料で行っています。賃料査定の段階では、賃貸管理会社との契約は必要ないことがほとんどですので、まずは気になった賃貸管理会社に賃料査定を依頼してみましょう。
賃料査定の具体的な方法や、賃貸管理会社の選び方については、こちらの記事で紹介しています。
賃料査定を依頼した会社の中から、実際に物件の賃貸管理を依頼する会社を決めます。複数の賃貸管理会社に入居者募集を依頼することもできますが、募集条件は揃えなければなりません。最終的に入居者を見つけて契約を行った会社が、賃貸中の賃貸管理を行うことになります。
賃貸管理会社を利用する際は、管理手数料が発生するため、この金額を会社選びの基準とする方もいるかもしれません。しかし、管理手数料は提供されるサービスの内容によって異なるため、サービスや保証、実績なども踏まえて、総合的な視点で賃貸管理会社を選ぶことが大切です。
家を貸すには広告を出して入居者を募集する必要があります。そのために貸し出すにあたっての条件を決めていきます。賃料査定結果を参考に家賃を決定し、ペット飼育や喫煙の可否などの条件を設定していきます。エアコンや食洗器などの設備を残す場合は、その取り扱いについても決めておく必要があります。
家賃を決めるときのポイントが気になる方は、こちらの記事もご確認ください。
家賃や入居条件を決めたら、不動産ポータルサイトへ物件情報を掲載し、入居者募集を開始します。賃貸管理会社によっては、社宅として利用する法人向けの集客チャネルや自社独自の集客ネットワークを強みとしている会社もあります。
入居者募集をしていると、入居希望者から物件の見学を希望する「内見」の申し込みが入ることがあります。内見での印象が良ければ、入居申込に繋がる可能性が高いため、入居者募集前に家を綺麗にしておきましょう。
入居申込が入ったら、支払い能力などに問題がないか確認する「入居審査」を実施します。審査結果に問題がなければ、契約締結へ向けて進めます。
契約にあたり、家賃や入居条件について、入居希望者から要望が入ることがあります。これら条件の交渉や契約開始日の設定、マンションであれば管理組合への届け出など、契約締結にあたって必要な調整を行います。
契約内容に貸主借主双方が合意したら、契約締結となります。
賃貸中は、常に入居者が問題なく物件を利用できる状態にしておかなければなりません。
賃貸管理会社を利用する場合は、家賃の回収や設備故障の手配など、そのほとんどを任せることができます。任せられる範囲はサービスや契約内容によりますが、後述する「サブリース」を利用すれば、家賃滞納時の訴訟対応なども任せることができます。
具体的な条件は契約内容によって異なりますが、契約期間の満了や入居者からの申し出によって、契約終了となります。
入居者には退去する際に、物件を借りる前の状態に戻す「原状回復」の義務があります。これは、経年劣化や日常生活で発生する通常損耗を除き、入居者の故意過失によって生じた傷などを直さなければならない義務であり、その負担については金銭で精算されることが一般的です。
賃貸の契約には、おもに普通借家契約、定期借家契約、一時使用賃貸借契約の3つがあります。貸し出すときの状況や条件に合わせて適したものを選びましょう。
普通借家契約は賃貸市場において、もっとも用いられている契約です。借主が望む限り契約が更新され、貸主からの解約には正当事由が必要となり、解約は非常に困難です。解約条件について借主に有利な契約のため、賃料も高く設定しやすく、長期的な賃貸や投資としての賃貸に適しています。
定期借家契約は予め設定した契約期間で契約が終了します。貸主都合で賃貸期間を設定できますが、長期的に住みたい入居者からは敬遠され、賃貸期間が短くなるほど入居者を見つけづらくなります。普通借家契約に比べて入居者に不利な条件を課すことになるため、相対的に家賃を低めに設定することが一般的です。賃貸期間が1年以上の場合は、期間満了の1年から6か月前の間に解約予告が必要です。
転勤期間中などの一時的な使用を目的とした賃貸に限って用いられます。解約事由は一時使用の目的を果たすことで満たされ、解約予告も3か月前までと短くなります。解約において、前述の2つよりも柔軟に対応できる契約方法です。
賃貸借契約を締結し、鍵を引き渡した後も、入居者が問題なく物件を利用できる状態にしておかなければなりません。家を貸し出している間も、設備故障の対応や家のメンテナンスなどについては、所有者である貸主に義務があります。賃貸中の管理について、詳しく見ていきましょう。
賃貸運営に関する業務は、家を貸し出す前の入居者募集から、賃貸中の管理、退去時の手続きまで多岐にわたります。なかでも入居者からの連絡は予測することが難しく、設備故障など内容によっては迅速な対応が求められることもあります。
しかし、これらの管理業務のほとんどは賃貸管理会社へ任せることができ、賃貸管理における手間を大きく減らすことができます。
入居者募集 | 賃貸契約中 | 退去 |
---|---|---|
広告宣伝活動 内見対応 入居希望者の審査 入居にかかわる手続き 賃貸借契約の締結 引渡前の家の状況の確認 鍵の引き渡し |
家賃回収・滞納者への催促 入居者からの依頼対応 建物・設備の修繕工事の手配 緊急時の対応 災害時等の対応 |
解約手続き 退去査定 原状回復費用の請求 原状回復工事の提案 |
賃貸管理には、物件所有者自らが管理の手間をどこまでかけるかによって、自主管理、管理委託、サブリースと大きくわけて3つの種類があります。
賃貸管理会社を利用する場合は、管理委託またはサブリースとなります。なるべく賃貸管理の手間を減らしたいのであれば「サブリース」が最適ですが、手数料が高くなるため、費用とのバランスを考えて「管理委託」という選択肢もあるでしょう。さらにコストを減らすためにすべて自分で管理を行う「自主管理」という方法もあります。
賃貸管理会社が賃貸借契約の借主となり、賃貸管理会社から入居者に貸し出す転貸となることが特徴です。賃貸管理会社が契約当事者となるため、家賃滞納時の訴訟対応等も任せることができます。海外赴任中の賃貸など、可能な限り手間やリスクを減らしたい方におすすめの方法です。
サブリースと異なり、賃貸借契約は入居者と締結し、管理委託契約を賃貸管理会社と締結して管理業務を委託する方法です。どの範囲まで業務を任せるかは、サービスや契約によって異なります。訴訟対応などは任せられない分、サブリースよりは手数料を抑えることができます。本業が別にある場合や、遠方に住んでいる場合におすすめです。
管理委託の詳細はこちら
自主管理では前述した業務を、すべて自分で行います。入居者からの連絡も直接受けることとなります。設備の故障など、迅速な対応が求められることもあります。
賃貸管理会社を利用しないためコストを抑えられますが、保証サービスなどが受けられないため、賃貸運営におけるリスクも高くなります。
自主管理の詳細はこちら
賃貸管理会社によって扱っている賃貸借契約の種類や、提供される管理サービスの内容は異なります。状況に応じて適切な会社や管理方法を選びましょう。
持ち家を初めて貸す場合は、できる限りリスクを減らし、賃貸経営の負担を減らせるような契約をおすすめします。このような賃貸管理会社を見つけるためのチェックポイントは次の通りです。
家を貸すと家賃収入が得られますが、一方で費用も発生します。収支について事前にシミュレーションを行い、かけた費用についてきちんと収入で賄えるようにしましょう。
家賃は賃貸運営において最も重要な収入です。賃貸運営にかかる費用を家賃で賄うことができなければ赤字となってしまうため、かけた費用とのバランスを考慮して設定する必要があります。
ここでは参考までに、2022年の1都3県首都圏の家賃相場(マンション・戸建)を紹介します。
賃料 | ㎡単価 | 面積 | |
---|---|---|---|
東京 | 9.9万円 | 3,056円/㎡ | 32.41/㎡ |
神奈川 | 8.0万円 | 2,276円/㎡ | 34.99/㎡ |
千葉 | 7.5万円 | 1,941円/㎡ | 38.42/㎡ |
埼玉 | 6.9万円 | 1,827円/㎡ | 38.01/㎡ |
賃料 | ㎡単価 | 面積 | |
---|---|---|---|
東京 | 15.7万円 | 2,090円/㎡ | 75.24/㎡ |
神奈川 | 11.9万円 | 1,572円/㎡ | 75.67/㎡ |
千葉 | 8.4万円 | 1,113円/㎡ | 75.38/㎡ |
埼玉 | 8.9万円 | 1,113円/㎡ | 73.99/㎡ |
出典:「年報マーケットウォッチ2022年・年度」 Ⅱ. 首都圏の住宅以外売買・賃貸、首都圏以外 表2 首都圏の賃貸より抜粋 [REINS TOWER]
契約条件や契約方法によっても家賃は変わります。適切な賃料を知るためには、賃貸管理会社にて、賃料査定を受けることをおすすめします。賃貸管理会社では、過去の実績やデータベースをもとに賃料を算出します。具体的な方法を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
マンションなどの共用部分を維持・管理する費用です。家賃とあわせて毎月受け取る費用ですが、家賃に組み込む場合もあります。
賃貸借契約締結時に受け取る一時金で、貸主へのお礼として支払われるものです。初期費用を減らして入居者を見つけやすくするために設定しない物件もあります。
同じタイミングで支払われる敷金は「預り金」であり、原状回復の費用に充てられなかった分は入居者に返還しなければなりません。
家を貸すには、入居希望者に選んでもらえるように、家の中を綺麗にしておく必要があります。このためのハウスクリーニング費用は必ずかかるものと認識しておきましょう。
賃貸物件としての魅力を高め、家賃収入を増やすためにリフォーム費用をかけることも考えられます。リフォームを行うべきかどうか、効果的なリフォームはどういったものになるかについては、賃貸管理会社に相談するとよいでしょう。
貸主には、常に入居者が問題なく物件を利用できる状態にしておく義務があります。設備の故障などが発生した場合は、修繕費用がかかります。
定期的なメンテナンスがある場合も、貸主の費用負担となります。
賃貸借契約締結時には、不動産仲介会社や賃貸管理会社に手続きを行ってもらうことが一般的です。その際には、「仲介手数料」や「事務管理手数料」といった費用がかかります。
また、賃貸中の管理を賃貸管理会社へ依頼する場合は、毎月「管理手数料」が発生します。管理手数料はサービスの内容によって大きく異なりますが、家賃の○%と設定されることが一般的です。
固定資産税や都市計画税は、家の所有者に支払い義務があるため、賃貸中もかかり続けます。ただし、賃貸を行う場合は支払った金額を経費として扱うことができ、所得税を計算する際に家賃収入から差し引くことができます。
家賃収入が発生することで不動産所得が発生し、所得税や住民税の課税対象となります。不動産所得とは、家賃収入から賃貸運営にかかる経費を差し引いたものです。所得税は給与所得などほかの所得と合算した金額に対して課税されます。
貸し出す家が住宅ローンで購入した家であり、ローンが残っている場合は金融機関に確認が必要です。住宅ローンは自分が住むための家の購入を目的としており、原則として住宅ローンで購入した家を貸し出すことはできません。ただし、転勤などのやむを得ない事情の場合は考慮してもらえる可能性があります。借入先の金融機関に確認してみましょう。
なお、家に住んでいない間は住宅ローン控除の適用を受けることができません。一度退去したのちに再び住み始める場合は、残存期間に限って適用を受けることができますが、事前の手続きが必要です。詳細はこちらの記事をご確認ください。
最後に、持ち家を貸すときの注意点をお伝えします。
「3.賃貸における契約の種類」でご紹介した通り3つの契約方法があります。
不動産投資として賃貸経営を行う場合は、普通借家契約を締結することで、収益を最大化することができます。しかし、将来的に家を使う予定がある場合や、転勤など期間を限定して家を貸し出す場合には、期間満了とともに確実に契約の終了が可能な「定期借家契約」や「一時使用賃貸借契約」を選ぶ必要があります。状況に合わせて適切な契約方法を選択しましょう。
「4.賃貸中の管理方法」で3つの管理方法をお伝えしましたが、賃貸運営における手間やリスクを減らしたいのであれば、賃貸管理会社を利用しましょう。なかでも、賃貸管理会社が契約当事者となるサブリース(転貸)での契約がおすすめです。管理委託では訴訟対応ができないため、万が一トラブルに発展した際に、入居者へ直接の対応が必要となります。
入居者の退去時に部屋の修繕費用の負担を求めることができるのは、入居者の故意や過失、つまり使い方が悪いことが理由できてしまった傷や汚れを修繕する費用のみです。通常の使用でできた傷や汚れは、貸主負担での修繕となります。
入居者へ費用を請求するためには、その傷が入居後にできた傷であることを示す必要があります。費用退去時点で特定することは難しいため、事前に家の状態を記録し、退去時に入居前の状態と比較できるようにしておきましょう。
家賃収入を得たら、必ず確定申告を行いましょう。家賃収入のほかに給与所得などがある場合は、これらも合わせて所得税や住民税を計算しなければなりません。確定申告の際は、賃貸運営にかかった費用を経費として収入から差し引くことができます。領収書などの書類を保管しておきましょう。
なお、海外赴任中など、国外に居住している場合でも、国内で得た収入は課税対象です。事前に納税管理人の選定を行い、対応できるようにしておきましょう。
一戸建てでは、家の中だけでなく外壁や屋根なども管理が必要です。建築したハウスメーカーで定期的な点検やメンテナンスを行うとともに、事前に修繕費用を準備しておきましょう。
また、一戸建ては独立した建物であり1階が含まれているため、台風などの自然災害による損傷リスクが大きく、立地によっては浸水のリスクもあります。火災保険などで修繕費用に備えておきましょう。
分譲マンションでは、管理組合が定めている「管理規約」や「使用細則」が占有者である入居者にも適用されます。賃貸借契約締結の際には、必ず内容を入居者に共有し、遵守してもらいましょう。
また、家を貸す場合に管理組合に対して、次のような届出が必要な場合もあります。事前にマンションの規約を確認しておきましょう。
もしも知り合いに家を借りたい人がいるのであれば、入居者を探す手間が省け、すでに知っている人が借主になるため、安心して貸し出せると考える人は多いでしょう。しかし、知人間での賃貸だからと契約内容が曖昧なまま貸し出してしまうと、トラブルに発展する可能性があります。知人間といえども、事前に契約期間や修繕費用の負担などについて取り決めを行い、しっかりと契約書を作成しておきましょう。
「持ち家を貸すにはどうすればよいのか」について、 家を貸すときの流れから 賃貸借契約の種類、 賃貸中の管理方法、 賃貸運営の収支、 賃貸運営における注意点まで、解説しました。
持ち家を貸すには、家を貸す流れを理解し、家を貸すにあたっての注意点も把握しておきましょう。まず、原則として住宅ローンが残っている家を賃貸することはできません。家を貸すにあたっては、賃貸の契約の種類によって解約の条件が異なり、賃貸中の管理方法によってリスクも異なります。入居者とのトラブル防止のためには、貸し出す前の家の状況を記録し、たとえ知り合いに貸す場合でも、しっかりと契約書を作成して取り決めを行うことが大切です。また、一戸建てにおける建物管理や分譲マンションの管理規約の内容など、居住形態ごとにも特有の注意が必要です。最後に、家を貸して家賃収入を得たら、必ず確定申告を行いましょう。海外在住者であっても、日本国内での所得は課税対象です。
状況に応じて契約方法や管理方法を適切に選択すれば、限られた期間しか貸し出せない家や本業がある方でも賃貸運営は可能です。得られる収入とかかる費用を確認して収支のシミュレーションを行うために、まずはどのくらいの家賃収入が得られるか、賃料査定を行ってみてはいかがでしょうか。
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