住まずに維持している家や転勤などで留守にする自宅は、賃貸物件として貸し出すことで有効に活用できます。しかし、初めて不動産を貸す際は、不動産会社とのやりとりや慣れない税申告に不安を感じることもあるでしょう。
ここでは、「不動産を貸し出して家賃収入を得たいけれど、何から調べたら良いのかわからない……」という方へ向けて、不動産を貸す前に知っておきたいポイントを解説します。
まずは、基本の契約や一連の流れ、不動産を貸す際の注意点を押さえ、不動産賃貸の知識を深めましょう。
不動産を貸すためには、貸主と借主で「賃貸借契約」を結ぶ必要があります。賃貸借契約は、賃料を支払って物の貸し借りを行なう契約の総称で、おもに不動産賃貸業界で用いられます。
賃貸借契約は、契約内容(物件の用途や賃貸期間など)によって契約の種類や名称が異なりますが、不動産を貸すうえですべてを事細かに把握する必要はありません。
ここでは、住むための一般的な建物賃貸で用いられる「普通借家契約(ふつうしゃっかけいやく)」と「定期借家契約(ていきしゃっかけいやく)」について見ていきましょう。
普通借家契約とは、契約更新が可能な賃貸借契約です。一般的な賃貸物件で用いられ、契約期間満了時は、事前に借主から解約の申し出がなければ自動更新となります。
普通借家契約では基本的に契約期間が1年以上で設定され、多くの賃貸物件では2年契約が用いられます。中途解約の可否については、貸主から申し出る場合と借主から申し出る場合で、条件が異なることを覚えておきましょう。
貸主から中途解約を申し出る場合:原則として貸主からの中途解約は不可(貸主がその物件を使用しなければならないなどの正当な事由があれば、中途解約が可能)
借主から中途解約を申し出る場合:
中途解約の特約を定めた普通借家契約であれば、中途解約が可能
定期借家契約とは、契約期間終了時に契約が終了し、契約更新のない賃貸借契約です。転勤中の家を賃貸するリロケーションでも用いられます。借主が契約の継続を希望し、貸主が了承できる場合、契約の更新ではなく再契約となります。
普通借家契約とは異なり、定期借家契約には契約更新がなく、おもに以下のような理由で用いられています。
ただし、契約期間1年以上の定期借家契約では、契約終了のために事前の通知を行わなければなりません。
契約期間終了の通知を出すタイミング:
契約期間が終了する1年~6ヵ月前までの間
中途解約については、一部のケースを除き、原則不可能です。
また、定期借家契約は普通借家契約に比べて、借主の居住の継続性が制限されることから、賃料は一般的な賃貸相場よりも安い傾向があります。定期借家契約での賃料は契約期間に左右されやすいため、期限付きで不動産の貸し出しを検討する際は、何年貸し出せるのか慎重に検討しましょう。
居住のために不動産を借りる機会はあっても、不動産を貸す機会はそう多くありません。不動産を貸すまでにどのような準備を行ない、契約中や契約後にどのような手続きが必要なのか見ていきましょう。
不動産を貸す際の流れと各ステップで行なう内容は、以下のとおりです。
1.入居者募集前の準備 | 2.入居者を募集する | 3.不動産を貸す | 4.退去後の精算 |
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入居者を募集する前に、不動産の賃貸に向けて以下の準備を行ないます。
・不動産会社の選定
不動産を貸したい人と、賃貸物件を借りたい人を仲介してくれる不動産会社を選定します。不動産を貸す際は、契約条件の交渉や適切な賃料設定、入居に向けたサポート、入居中の管理など多くの作業が必要です。まずは、複数の不動産会社から自分の希望に合った会社を選びましょう。
仲介のみを行なってもらいたいときは不動産会社へ、入居後の管理まで依頼したい場合は賃貸管理会社に依頼します。会社によりサービスの内容や範囲は異なるため、不動産会社を選ぶ際は、会社ごとの特徴や強みをよく比較することが大切です。
・入居者の募集条件の設定
入居者募集までに、どのような条件で不動産を貸し出すのかを決めます。事前に設定する募集条件は以下のとおりです。
賃料は、物件の状態や周辺環境などさまざまな要素から決まります。希望する賃料を不動産会社へ伝えたうえで、不動産会社の実績やノウハウをもとに、適切な賃料設定を行ないましょう。賃貸実績が豊富な不動産会社であれば、個々のケースに応じた適切なアドバイスをもらえます。
・ハウスクリーニング
入居者募集の条件が整ったら、貸主の退去後に物件のハウスクリーニングを行ないます。築年数が浅く状態の良い物件だとしても、汚れが目立ちやすい部分はきれいにしておきましょう。
特に、浴室やキッチンなどの水回りは、内覧時の印象を左右するポイントです。目に付きやすい劣化がある場合は、必要に応じて修繕やリフォームも検討します。
ハウスクリーニングやリフォームの範囲は、予算や賃料、工事期間、賃貸期間などの条件をもとに、不動産会社の担当者と打ち合わせを行ないましょう。
物件のハウスクリーニングが終わり、入居の準備が整ったら、入居者の募集を開始します。入居者募集から入居直前までの流れを見ていきましょう。
・入居者の募集開始
不動産会社が持つネットワークや情報誌へ物件情報を掲載し、入居者の募集を開始します。入居希望者から問い合わせがあれば、不動産会社が対応します。問い合わせの数や内覧者数など、入居者募集の状況が知りたいときは担当者へ連絡しましょう。
条件の合う入居希望者から入居申し込みがあった場合は、不動産会社が定める基準に則って入居審査が行なわれます。入居審査とは、借主の支払い能力や連帯保証人の有無などを調査することです。入居希望者の入居審査を行なうことで、賃料の滞納やトラブルのリスクを減らせます。
・賃貸借契約の締結
入居者が決定したら、賃貸借契約を締結します。契約書類の作成や貸主・借主への契約内容の説明などはおもに不動産会社が行なうため、貸主は契約内容を確認し、必要事項を記入します。
・入居前のチェック
賃貸借契約の内容や物件の現状は、入居前に再度確認し、借主と内容を共有しましょう。普通借家契約または定期借家契約のどちらで契約するかにより、契約内容は大きく異なります。契約期間や更新(解約)の定め、賃料や独自の取り決め事項に記載漏れや誤りがないかよく確認することが大事です。
なお、賃貸サービスにはさまざまなものがあり、その内容や契約の種類は不動産会社によって異なります。普通借家契約と定期借家契約以外の賃貸契約についての詳細は、以下の記事を参考にしてください。
入居開始後は、入居中の管理と退去管理が必要になります。入退去に関わる管理業務は、賃貸管理会社への業務委託も可能です。転勤や出張などで物件の管理が難しい場合、不動産会社や賃貸管理会社の物件管理サービスを利用しましょう。
以下では、入退去に関してどのような管理が必要になるのか解説します。
・入居中の管理
賃料の集金やエアコンなどの設備管理、扉や建具などの建物のメンテナンス、トラブル対応などが入居中のおもな管理業務です。会社によっては、滞納された賃料を賃貸管理会社が立て替える賃料支払保証サービスなどが用意されています。入居中の管理を賃貸管理会社へ業務委託する場合でも、会社ごとにサービス範囲が異なる点には注意しましょう。
・退去管理
契約期間が終了する際は、契約更新や再契約、退去の手続きが必要です。契約期間の終了を通知するなど、契約内容に応じた手続きを行ないます。契約更新や再契約をせず退去となる場合は、物件を明け渡してもらう期日を設定します。
退去後は、物件の状態確認と原状回復を行ない、原状回復費用を精算します。どのようなチェックが必要なのか、退去後の流れを解説します。
・退去後のチェック
入居前に確認した物件の状態と、退去後の状態を比較し、賃貸期間中にどのような損傷があったか確認します。賃貸期間中に発生した損傷のうち、入居者の過失と認められるものの修繕にかかる費用は、原状回復費用として算出されます。
・原状回復費用の精算
最終月の賃料や入居者から支払われた原状回復費用などが、貸主の口座へ振り込まれます。原状回復にかかる費用が敷金を上回り、借主からの未払いが続く場合に備えて、退去時の費用を賃貸管理会社に立て替えてもらえる保証サービスなどもあります。
原状回復費用の精算が完了し、不動産会社や賃貸管理会社のサービスを解約したら、不動産の賃貸は終了です。
居住予定のない物件や、一定期間留守にする家を賃貸に出すと、住まずに維持する場合と比べて多くのメリットがあります。使用していない不動産がある方は、以下のメリットを参考に賃貸を検討してはいかがでしょうか。
使用していない不動産を貸すことで、本業とは別に、毎月決まった金額の安定した収入を得られます。家賃収入の金額は、不動産があるエリアや築年数などの条件によって異なりますが、多くの場合、不動産維持にかかる費用を相殺できるでしょう。なお、不動産を空き家として維持するためにかかる費用は、年間35万円ほどが目安です。
ただし、不動産を貸して得た利益は課税対象のため、確定申告と納税が必要です。税申告に不安があれば、不動産会社や賃貸管理会社へ相談してみてください。
人が住んでいない住居よりも、人が住んでいる住居のほうが長期的な維持が可能です。
不動産を空き家のまま放置すると、換気不足やほこりの蓄積によるカビが発生しやすくなります。人が住んでいない住居は、家具や家電が傷まないように感じられますが、実際はカビや害虫の被害を受け、老朽化が進むことを知っておきましょう。
「思い入れがあり手放したくない」「いずれ住み直したい」など、将来まで長く維持したい不動産があれば、賃貸に出すのも賢い選択の一つです。
空き家と比べると、人が住んでいる住居のほうが空き巣や放火などのリスクを軽減できます。管理が行き届かないまま維持しているだけの不動産があれば、賃貸に出し、収入を確保しながらトラブル対策を行なってはいかがでしょうか。
物件の状態によってはリフォームが必要になる場合もありますが、「借りたい人がいるのかわからない」というときは、一度、不動産会社や賃貸管理会社へ相談してみましょう。
不動産を貸す際はメリットだけでなく、いくつかのデメリットも存在します。不動産を賃貸に出してから後悔することがないよう、不動産オーナーとして知っておくと良いポイントを解説します。
不動産を貸すと老朽化を防げる一方で、物件や設備に損傷を受ける可能性もあります。
入居者の故意過失による損傷は、原状回復費用を入居者が負担します。しかし、経年劣化や自然災害などで発生した損傷については、基本的に貸主側で修理費用を負担する必要があります。これらは自己居住の場合でもかかる費用であり、家を使う上でかかる費用として、家賃に含まれて支払われていると考えられています。
修理費用は予期できないタイミングでの出費となるため、不動産賃貸時の収支計画は慎重に検討してください。
賃貸管理会社によっては、賃貸期間中に発生した修理費用の一部を負担してもらえるサービスなどもあります。
不動産賃貸で得た家賃収入は、課税の対象です。家賃収入で得た利益は不動産所得と呼ばれ、不動産所得が年間20万円以上ある場合は、確定申告が必要となります。
不動産所得は、家賃収入から不動産の賃貸管理にかかる経費を差し引いた金額のため、家賃収入の金額と混同しないよう注意しましょう。
不動産所得の確定申告を行なう際、経費に計上できるおもな費用は以下のとおりです。
不動産によっては、貸し出す前にリフォームが必要になる可能性があります。
リフォームの内容は、物件の状態や家賃収入で見込める金額などをもとに決めるケースが多く、個々の条件により異なります。快適な住まい作りのために最低限のリフォームを行なうのか、物件のアピールポイントを増やすために設備や仕様のグレードをアップさせるのかなど、目的によってもリフォーム箇所は変わってくるでしょう。
リフォーム費用に不安があり、不動産を賃貸に出すか悩んでいる場合は、まずは不動産会社や賃貸管理会社へ相談し、本当にリフォームの必要性があるのか、必要な場合はどれほどの費用がかかるのか確認しましょう。
そもそも貸すことのできない不動産だった場合、せっかくの情報収集や準備も無駄になってしまいます。所有する不動産に住宅ローンが残っている、搬出が困難な家具・家電が大量にあるといった場合は注意が必要です。
ここでは、不動産を貸す際に知っておくべき注意点を解説します。
住宅ローン契約中の不動産は、住宅ローン契約者が居住する前提で金融機関と契約が結ばれているため、基本的に賃貸に出すことができません。
住宅ローンが残っている不動産を賃貸物件として貸し出したい場合は、住宅ローンを借りている金融機関へ相談しましょう。
金融機関によっては、賃貸に出すことを前提としたローンを取り扱っている場合があり、住宅ローンからの借り換えによって、不動産を賃貸できるようになる場合もあります。
なお、住宅ローン契約中に金融機関へ相談せず不動産を賃貸に出すと、契約違反となり、違約金やローンの一括返済などが発生する可能性があるため、注意が必要です。
不動産を貸す際、家具や家電などの家財は、一部を除き、基本的に残すことができません。将来的に自分たちが使うものや、思い入れがあり保管しておきたいものがあれば、トランクルームの利用などを検討しましょう。
保管する必要がなくまとめて処分したいときは、家具引取サービスのある引越し業者や、不要品買取サービスを利用する方法があります。いずれの場合も、不動産を貸す前に費用相場を調べ、見積もりを取っておくと安心です。
不動産を貸す際に残せる電化製品としては、照明やエアコンが挙げられます。賃貸物件サイトなどに掲載される物件のなかには、家具・家電付きの物件もありますが、その多くは一人暮らしや単身赴任者向けの物件となっています。
不動産を賃貸に出すうえで、トラブルリスクをゼロにして貸し出すことはできません。入居時には、不動産会社や賃貸管理会社による入居審査がありますが、事前に取り決めたルールや一般的なマナーを入居者が守ってくれるかどうかは、誰も保証できないためです。
将来的に再び住むことを前提としたリロケーションなどでは、貸し出す不動産をできるだけきれいに使ってほしいと願う方もいるかもしれません。
しかし、トラブルリスクがゼロにならない以上は、入居者トラブルを避けるのではなく、トラブルが起きた場合に、適切な対処ができるようにしておく心構えが大切です。
不動産賃貸でよくある入居者トラブルには、以下のようなものがあります。
最後に、不動産を貸す際によくある質問をまとめています。初めて不動産を貸す方は参考にしてみましょう。本記事で解決できないお悩みや不安があれば、株式会社リロケーション・ジャパンの「リロの留守宅管理」へお気軽にご相談ください。
賃貸借契約時に追加できる契約条件は、不動産会社によって異なりますが、「ペット不可」や「たばこ不可」といった一般的な条件は、基本的にどの不動産会社であっても追加可能です。ただし、入居に関する条件が多いほど、入居者が見つかりにくくなる点には注意が必要です。
また、賃貸に出す期間が1年に満たないなど特殊な条件がある場合は、早い段階で不動産会社へ相談しましょう。
引越しをして家を空ける1.5~2ヵ月前を目安に、不動産会社へ相談しましょう。一般的に、借主は賃貸物件へ住み始めたい時期の1ヵ月前頃から物件探しを始めるといわれています。効率良く入居者を募集するためにも、不動産を貸す目処が立ったら早めに準備を進める姿勢が大切です。
なお、相談する理想のタイミングを過ぎていて、すでに引越し準備を行なっている場合などでも賃貸の申し込みは可能なので、まずは一度、不動産会社へ相談するとよいでしょう。
賃貸期間中の借主からの連絡は、基本的に賃貸管理会社が一次窓口となります。借主から貸主へ、直接連絡が入るケースはまずありません。
賃貸管理会社が受付を行い、設備の修理などどのような対応を行なうかについては、賃貸管理会社と貸主で相談し、最終的に貸主が決定します。クレーム対応などの場合も、賃貸管理会社と相談して対応を決めていきます。
契約違反を行なわないように要求してもなお、契約違反が見られる場合、入居者との信頼関係が損なわれたとして、貸主から入居者へ契約の解除を請求できます。
貸主の都合による中途解約については、原則としてできません。
入居者退去後は、国土交通省が発行する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に沿って、原状回復が行なわれます。入居者には退去時に原状回復義務がありますが、ほとんどの場合は損傷箇所の修繕費用を入居者が支払う金銭賠償で精算されます。
参考:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について|国土交通省不動産を貸す際の契約は、大きく分けて普通借家契約と定期借家契約の2種類です。どのように賃貸に出すかにより賃貸借契約の種類は異なり、契約内容や条件の決め方も変わります。不動産を貸す際の流れを念頭に置き、適切なタイミングで準備を進めましょう。
不動産の賃貸を検討し始めたら、不動産会社や賃貸管理会社へ相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
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