日本国内の会社で働いて給与を得ると、所得税が課税され、納税は給与からの天引きによって行われます。では、海外赴任時に現地の支店や子会社で働いて得た収入はどうなるのでしょうか。
また、リロケーションを行う場合に生じる家賃収入などに対して、確定申告は必要になるのでしょうか。気になる海外赴任中の税金の取り扱いや納税方法についてご紹介します。
海外赴任時に日本の所得税が課されるかどうかについては、「居住者」「非居住者」のどちらかによって決められています。
ここでは「居住者」「非居住者」の定義についてお伝えします。
「居住者」とは、国内に住所があり1年以上日本に住み続ける方です。海外赴任の期間が1年未満であれば「居住者」として扱われ、国内海外問わず発生した所得に対して課税されます。
「非居住者」とは、「居住者」以外の個人を指します。海外赴任の期間が1年以上であれば「非居住者」となります。
この記事では、「非居住者」の方を対象とした所得税や住民税の扱いを中心に紹介します。
参考:居住者と非居住者の区分
また、海外赴任時にお家をどうするかお考えでしたら、当社にご相談ください。
当社では国内外へ転勤する際、留守となるご自宅を期限付きの特別な契約を用いてサポート致します。
所得税は、会社から支給される給与や、自営業などで得た利益に対して課税される税金です。
前述の通り、1年以上の予定で海外支店に勤務した場合や海外の子会社に出向した場合は、所得税上の「非居住者」となります。非居住者が国外勤務で得た給与には、原則として日本の所得税は課税されません。
しかし、国内で得た給与は課税対象であるため、海外赴任前には海外勤務を開始する年の1月1日から出国日までに日本国内で得た給与について、源泉徴収された所得税を精算する必要があります。精算方法は、毎年12月に行う年末調整と同様の手順で、勤務先の企業が行います。まず、「給与所得者の保険料控除申告書」を会社に提出します。この時、控除する保険料は非居住者となる日までに支払った金額を対象にして算出します。
次に、その年に提出した「給与所得者の扶養控除等申告書」の記載内容に変更がないかを確認します。扶養親族になるかどうかは、出国時の現況が判断基準となります。配偶者控除や配偶者特別控除を受ける場合には、「給与所得者の配偶者控除等申告書」も合わせて提出します。控除対象扶養親族などに該当するかどうかは、海外赴任となる年の1年分の所得金額を出国時の現況をもとに見積もり、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除が受けられるかどうかを判断します。
「非居住者」となる方は、海外赴任先で納税義務が発生します。ここでは日本と海外の所得税の違いを紹介します。海外赴任時の参考にしてください。
国 | 最低税率 | 最高税率 |
---|---|---|
日本 | 5% | 45% |
アメリカ | 10% | 37% |
イギリス | 20% | 45% |
ドイツ | 0% | 45% |
フランス | 0% | 45% |
中国 | 5% | 35% |
タイ | 0% | 35% |
主要国の税率に大きな差はありません。各国ともに累進課税方式が採用されており、所得額に応じて税率が異なっています。なお、国によってはこのほかにも住民税などが課される場合があります。例として、日本人の在留者の多い、アメリカと中国について、その内訳をみてみましょう。
アメリカ 1ドル=139.67円(2023年7月19日現在)
課税所得帯 | 税率 |
---|---|
0~11,000ドル以下 | 10% |
11,000ドル超~44,725ドル以下 | 1,100.00ドル+12% |
44,725ドル超~95,375ドル以下 | 5,147.00ドル+22% |
95,375ドル超~182,100ドル以下 | 16,290.00ドル+24% |
182,100ドル超~231,250ドル以下 | 37,104.00ドル+32% |
231,250ドル超~578,125ドル以下 | 52,832.00ドル+35% |
578,125ドル超 | 174,238.25ドル+37% |
中国 1元=19.32円(2023年7月19日現在)
課税所得帯 | 税率 |
---|---|
3万元以下 | 5% |
3万元超~9万元以下 | 10% |
9万元超~30万元以下 | 20% |
30万元超~50万元以下 | 30% |
50万元超 | 35% |
このほかの国の税金の種類や税率の詳細は日本貿易振興機構(JETRO)のサイトの国・地域別のコンテンツにて確認できます。
また、財務省のホームページでは、日本とアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの主要国における個人所得課税の税率構造や課税負担額の比較表が掲載されています。この4か国のいずれかに赴任予定の方は確認しておくとよいでしょう。
海外に転勤して非居住者となった後も、日本国内で所得が生じる場合には、引き続き日本の所得税の課税対象となり、確定申告が必要となります。しかし、海外赴任者は海外居住のため、日本での確定申告手続きは難しくなります。そのため、確定申告が必要な場合は、海外赴任者に代わって日本で所得申告書の提出や税金の納付などを行う納税管理人を選定しなければなりません。
納税管理人は、法人でも個人でも構いません。海外赴任者の納税地を所轄する税務署長に「所得税の納税管理人の届出書」を提出することで、納税管理人として認められることになります。出国前に納税管理人を決定し、届出をしておきましょう。届出提出後には、税務署からの書類は納税管理人宛に送付されますが、確定申告書の提出は海外赴任者の納税地を管轄する税務署長に対して行います。
国内の自宅をリロケーションする場合、家賃収入などの不動産所得は日本の所得税の課税対象となり、一定額以上であれば毎年確定申告書を提出しなくてはなりません。年の中途で海外赴任になった場合には、その年の1月1日から出国する日までの間に生じたすべての所得と、出国した日の翌日からその年の12月31日までの間に生じた国内源泉所得を合計した金額で確定申告を行います。
出国までに納税管理人の届出を提出していない場合は、出国翌年以降、毎年2月16日から3月15日までの間に自身で確定申告をしなければならなくなります。リロケーションをする場合は、納税管理人の届出を忘れないように注意しましょう。
また、海外赴任中に不動産を売却した時に得られる所得に対しても、日本で所得税が課税されます。不動産の売却で得られる所得は譲渡所得とされ、原則として確定申告が必要です。譲渡所得の金額の算出方法は、国内居住者の場合と同様です。
納税が必要になるのは所得税だけではありません。日本国内に土地や家屋などの固定資産を所有している場合は、海外居住後も引き続き固定資産税や都市計画税の支払い義務があります。納税方法は、銀行の自動引き落としに設定するか、納税管理人に支払いを代行することが一般的です。
ここまで海外赴任中の所得税の取り扱いについてお伝えしましたが、住民税はどのような扱いになるのでしょうか。まず原則として、住民税はその年の1月1日に住所があった市区町村に前年1年間の収入を元に算出された税額を納付します。そのため、年の途中で海外に転出した場合であっても、その年度の住民税は全額支払わなければなりません。
出国の翌年の1月1日をまたいで1年以上海外に居住する場合は、その年度の住民税は課税されません。会社員の場合は6月~翌年5月まで給与から天引されます。出国した年の納税分は、勤務先での最後の給与で一括徴収され、この場合は手続きの必要がありません。自分で納税する場合には、納税通知書を受け取り、代わりに納税する納税管理人の選任が必要です。納税は納税管理人を通じて行います。
カテゴリ:海外赴任 関連記事
人気記事TOP5