「郷に入れば郷に従え」という言葉があるように、海外生活ではその国のマナーや風習に従うことが大切です。特に海外赴任ではビジネスシーンの重要な場として会食やパーティ等に出席する機会も多くなります。日本では何も問題のない作法でも、海外では相手に対し失礼にあたる場合やその国の習慣ではタブーになっていることもあり、知らなかったでは済まされない問題にまで発展するケースもあります。
自身が恥ずかしい思いをしないためだけでなく、周りの人に不快な思いをさせないためにも、赴任地の食事のマナーを心得ておくことは重要です。食事を気持ちよく楽しめるように、基本のテーブルマナーを事前にしっかりと抑え、スマートな振る舞いを心掛けましょう。
まず日本と大きく異なるのは、食器の扱い方です。日本では食器を手に持って食べることが正しいマナーとされていますが、この習慣は海外では少数派です。欧米では食器を手に持つことはありません。欧米だけでなく、日本と文化が近い中国や韓国でも、食器を持ち上げることはマナー違反とされています。
また、国によってフォークやスプーン、ナイフの使い方も異なります。イギリスでは、スープを飲むときは、手前から奥にスプーンを動かしてスープをすくいます。反対にフランスでは、奥から手前にスプーンを動かしてスープをすくいます。
また、ヨーロッパでは右手にナイフ、左手にフォークを持ったまま、料理を切りながら食べ進めていきます。しかしアメリカでは、ナイフを右手、フォークを左手に持って一口大にカットした後は、ナイフを皿の右側に置き、フォークを右手に持ち替えて食べるスタイルが主流です。
タイでは、スプーンをナイフのように使い、フォークはスプーンに料理を乗せるために使います。フォークを料理に刺して食べることはしません。また、スープも必ずスプーンを使い、直接お皿に口を付けてすすることはNGです。
インドやイスラム圏の国々では、手を使って食べる風習が浸透しています。もちろんレストラン等ではフォークやナイフも用意してくれますが、ここでも「郷に入れば郷に従え」で手を使って食べると、現地の方々との距離がぐっと近くなるかもしれません。ただし、気を付けないといけないのは、必ず右手を使うということです。左手は不浄の手とされ、食事の際はもちろん、人に物を手渡すときや握手のときなども右手を使います。左右を間違えると、周りに不快な思いをさせてしまうことがあるので注意が必要です。
食事中の「音」も、日本と海外では考え方が異なります。日本では麺類や汁物を食べる際、ズズズっと音を立てて食べることに抵抗感がなく、むしろ音を立てたほうがおいしく感じると思われています。しかし、多くの国では食事中に音を立てるのはご法度です。麺類やスープも「すする」ではなく「食べる」感覚で音を立てずに味わうようにしましょう。
また食べ物をすする音だけでなく、フォークやナイフで食べ物を切り分けるときに音を立てることも好ましくありません。フォークやナイフを持つ手には力を入れ過ぎず、カチャカチャと音が出ないように食器に押し付けないようにすることがポイントです。
日本と同様、食事中のゲップもマナー違反です。中国やイスラム圏の国々ではゲップが食事に満足したことの表れにもなりますが、それでも派手に音を立てることは好ましくありません。
食事中に鼻をすすることも周りに不快感を与えてしまいます。鼻が気になるようなら、すするのではなく静かにかむようにしましょう。
日本で食事を注文する際は、1品だけのオーダーでも問題ありませんが、ヨーロッパでは前菜、メイン、デザート、ドリンクを注文するのが通例で、注文が1品だけだと店側に嫌な顔をされかねません。水もサービスで出される日本と違って、有料のミネラルウォーターを注文するのが一般的です。
また、日本では注文をする際に声を上げて店員を呼ぶことがあります。しかし、ヨーロッパやアメリカでは、声を出してスタッフを呼ぶことはマナー違反とされます。店員を呼びたいときは、目配せを送ったり、軽く手を挙げたりして呼ぶようにします。
日本では、手酌をさせることは失礼だと相手のグラスが空になる前にビールを注いだり、飲み物を注いだりします。しかし、ヨーロッパやアメリカでは、お酒を注ぐのもお店のスタッフの仕事です。ワインが減っているのを見ると担当の店員がテーブルに来てワインを注いでくれます。日本のお酌のように相手のグラスにお酒を注ぐことは避け、自分のグラスにも自分で注がないように注意しましょう。
また、国によってはお酒が禁じられているところもあるので、飲酒については注意が必要です。イスラム圏の国々では基本的に飲酒が禁じられています。その他、イスラム圏以外でも、特定の祝日を禁酒日とする国もあり、ビーチや屋外での飲酒を禁じている国も多く見られるため、日本とは飲酒の風習や考え方が異なることを肝に銘じておきましょう。
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